コーヒーとトネリコ

いいアイデアだと思って書いてみたら、先週上司に説教された内容そのままだった。めげずに生きていきたい

青リンゴってどんなリンゴ?という話

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世界は青リンゴ味でいっぱいだけど……

世の中には青リンゴ味があふれている。

アイスクリームやらガムやら、これを読んでいる人に青リンゴ味の食べ物を食べたことがないという人は少ないだろう。

どんな味か、という点についても、ある程度パブリック・イメージは固まっている。普通のリンゴよりさわやかで、酸っぱくて、ちょっと未成熟な、そんな味が頭の中に、もしくは舌の上に浮かんでくると思う。

ただ、実際に「青リンゴ」を食べた人はそれほどいないではないだろうか。

王林は青リンゴ味がしない

食品スーパーで一般的に販売されている青リンゴ(赤や黄色じゃなくて緑色。日本語は緑を青と表現することがある。英語だと青リンゴは"green apple")は、王林という種類のリンゴだ。

店頭に並んでいる緑色のリンゴは、ほぼ王林だ。

で、このリンゴを買って食べてみると、アイスクリームやガムの青リンゴ味とはちょっと違うのである。いわゆる普通の一般的なリンゴの味がするわけだ。シナノゴールドとかゴールデン・デリシャスとか紅玉とかそういうリンゴです。

じゃあなんだよ青リンゴ味って! どんなリンゴをかじったら、私たちはアイスキャンディーやガムで味わってきたあのフレイバーに出会えるのか。どこで売っているんだよ! 俺に青リンゴを食べさせろ! あの味がする果実をかじらせろ!

こんな疑問と衝動に突き動かされてこれまでの半世紀を生きてきた。四捨五入して半世紀なので、実際はもうちょっと短い。さらに疑問を持ったのは正直言って10代に入ってからなので、さらに短い。

ラニー・スミスが青リンゴ味の「正解」

青リンゴ味といったときのリンゴの品種は、グラニー・スミスという品種である。あ、正解言っちゃった。一番上の写真のリンゴです。

ラニー・スミスは、19世紀後半にオーストラリアで偶然誕生した品種だと言われている。

今では主にアメリカとかヨーロッパとかで栽培されている。アップル・レコードのマークはこのリンゴがモチーフ。アップル・コンピュータのロゴもこのリンゴがモチーフだと言われている。モチーフにされまくりだ。詳細は各自ググったりウィキペディアで調べてほしい。

ラニー・スミスは、青いまま熟して、甘みと酸っぱさのハーモニーによって、かじった人の口に「あの青リンゴ味」を満たす果実である。青いのは、成熟する前に収穫しているからではない。青い状態が完成品だ。グラニー・スミスに「まだまだ青いな」と言っても、キョトンとされるだけである。

日本でもこの品種を栽培しているリンゴ農家がある。以前、一箱注文したことがある。僕の幸せな人生を彩ったのはこのリンゴである。死んだら棺桶に一個入れておいてほしい。

正解って書いちゃったけれど、もうひとつ「既存の、熟すと赤や黄色になるリンゴを、未成熟のときに収穫した」青リンゴという正解もあるはずだ。ただ私はリンゴ農家ではないので、未成熟の青リンゴを味わう機会がない。私がリンゴ農家のリンゴ農園にお邪魔して未成熟の青リンゴをもぎ取ってかじる行為は、主に窃盗罪に該当するのではないか。法律にはそれほど詳しくありませんが。

あと、いかがでしたかブログみたいになるので本当は書きたくないんだけれど、赤いリンゴとの青いリンゴの皮の色の違いは、要するに「そういう品種だから、熟しても青い」場合と、「まだ熟していない」場合に分けられます。いわゆる色素の違いです。細かく言うと光の周波数の話になります。主に太陽を中心とする恒星から発せられてだいたい絶対零度という超低い温度の寒々しい宇宙空間を通り抜けてきた光を、リンゴがどのくらいの周波数を吸収して、どのくらいの周波数を反射するのかによって変わってくるのです。いかがでしたか。

死ぬ前に一度は味わえ青リンゴ

ラニー・スミスは、一般的な食品スーパーには売っていない。カスミにもヤオコーにもコモディイイダにもライフにもなかった。OKスーパーにはもちろんない。もしかしたら高級食品スーパーには売っているのかもしれない。麻布ナショナルとか。あとタカノフルーツパーラーとか。千疋屋とか。

ラニー・スミスという名前を、どうか覚えていてほしい。そして自分の中に「青リンゴっていうけどどんな味なんだろう」という疑問が浮かんだ際には、注文して自らの舌で味わってほしいのだ。

本当の青リンゴ味を知ることは、決してあなたの人生に無駄なことではないと断言できる。「青リンゴ味」が実際の果実によって裏付けられたもので、江崎グリコの社員が研究室で「こんな感じっすかね」と決めたフレイバーではないということに、あなたの舌で賛同してほしい。「青リンゴ味」という幻想を解凍し、私たちの味覚で感じ取れる現実だということを明確にしてほしいのだ。

ちなみにグラニースミスというアップルパイ屋さんがある。美味しい。ただアップルパイはアップルパイで、青リンゴの味はしない。

※2021/09/16改稿